民主党の子供手当の損得を生涯トータルで考えてみる

もう既に選挙は民主党圧勝の流れですし、
自民党下野(あるいはそのまま分解)も今までの実績を考えると致し方のない事だと思います。
でも、もし民主党子供手当を目当てに投票しようとする人は、
自分の生涯トータルで考えた場合に、
本当に得になるのか知った上で選挙に行ってほしいと思うので、
その計算を簡易ながらやってみました。


(*)単年度の収支シミューレションは
以下のページで詳しく解説されているのでご参考ください。<<扶養控除と配偶者控除が廃止され、子供手当てが給付されるとどうなるか?>>
http://stockkabusiki.blog90.fc2.com/blog-entry-866.html


計算の前提として、
子供一人当たり月26,000円の支給が
この計算期間中ずっとなされて、
その他の税率も変わらないという
非現実的な設定がありますが、
その非現実さはあえて無視させていただきます。


まず、もらえるようになるお金ですが、
これは単純に、子供一人あたり
2.6x12x15 = 468万円
とさせていただきます。
現在の民主党マニフェストですと、
「子供が生まれてから義務教育期間である中学卒業まで」
となっているので、厳密には12x15=180ヶ月の支給ではないのですが、
さすがにそのままだと、4月に産もうとする人が
異様に多くなってしまって問題になると思うので、
15才未満の子供に変わると思うので、この計算で進ませてもらいます。


で、増税の部分ですが、
データとしては以下を使わせて頂きます。<<資料>>


所得税の計算手順
http://www.h-fj.com/blog/archives/2007/06/26-113206.php#


所得税
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm


課税所得金額   税率    控除額
0 ~195万円    5%     0円
195~330万円   10%   97,500円
330~695万円   20%  427,500円
695~900万円   23%   636,000円
900~1,800万円  33%  1,536,000円
1,800万円超   40%  2,796,000円


給与取得控除額
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1410.htm


配偶者控除
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1191.htm
一般の控除対象配偶者   38万円
老人控除対象配偶者    48万円


扶養控除
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1180.htm

(簡易なまとめ)
一般の扶養親族 38万円
特定扶養親族 63万円
同居老親等 58万円
(同居戸区別障害者の方や、同居老身以外の人の数字はリンク先をご参照ください。)


モデル年収ですが、計算を簡単にするため
250万円(5%)、500万円(10%)、700万円(20%)、1200万円(23%)、1450万円(33%)にさせていただきます。
その中間の年収の場合は扶養家族二人までの場合は
一番近い下の年収と同じ収支になります。



よくありそうなケースの年間の増税額を計算してみると
15才以下の子供一人あたり、   1.9 / 3.8 / 7.6 / 8.74 / 12.54 万円  
16-22才までの子供一人あたり   3.15 / 6.3 / 12.6 / 15.64 / 20.79 万円 
69才以下の扶養配偶者がいる場合 1.9 / 3.8 / 7.6 / 8.74 / 12.54 万円
69才以下の扶養老親がいる場合  1.9 / 3.8 / 7.6 / 8.74 / 12.54 万円 
69才以下の扶養老親がいる場合  1.9 / 3.8 / 7.6 / 8.74 / 12.54 万円 
70才以上の扶養老親がいる場合  2.9 / 5.8 / 11.6 / 13.34 / 19.14 万円 




次に人生プランのモデルですが、
まず全員22才で就職して、60才まで雇用が続くとします。
(こんな仮定はこれからの時代ありえないでしょうが、
とりあえずベストケースの極限だと思ってください。)
親を介護する場合は、51-60才の10年間を計算に入れます。
退職金は計算に入れません。
子供は22才まで扶養家族とします。


人生プランの要素は、
結婚:独身/31才で結婚
子供:子供無し/子供あり(32才に生まれる)
共働き:扶養配偶者がずっといない/30才からいる
親の介護:しない/する


組み合わせる前に要素ごとの収支を見ておくと、

         もらえる金額        増税額          収支
子供一人あたり      468    50/101/202/232/333   418/367/266/236/135
扶養配偶者がいると     0    57/114/228/262/380  -57/-114/-228/-262/-380
介護する親一人あたり    0    29/58/116/133/191  -29/-58/-116/-133/-191


です。
では、組み合わせた場合の結果です。


       もらえる金額     増税額             収支         備考
独/0/無/無         0   0.0/0.0/0.0/0.0/0.0    0.0/0.0/0.0/0.0/0.0/0.0
独/0/無/有         0   29/58/116/133/191   -29/-58/-116/-133/-191  


結/0/無/無         0   0.0/0.0/0.0/0.0/0.0     0.0/0.0/0.0/0.0/0.0 子供の居ない共働き夫婦
結/0/無/有         0   29/58/116/133/191  -29/-58/-116/-133/-191
結/0/有/無         0   57/114/228/262/380 -57/-114/-228/-262/-380 子供の居ない片働き夫婦
結/0/有/有         0   86/169/344/395/571 -86/-169/-344/-395/-571


結/1/無/無        468   50/101/202/232/333  418/367/266/236/135  子供一人の共働き夫婦
結/1/無/有        468   79/159/318/366/529  389/309/150/102/-61
結/1/有/無        468   107/215/430/495/713  361/253/38/-27/-245  子供一人の片働き夫婦
結/1/有/有        468   136/269/547/628/904  332/199/-79/-160/-456



この結果を大雑把に捉えると、
「独身者、子供のいない共働き夫婦にはペナルティ0」
「その分、片方が仕事の無く、子供のいない夫婦の損失が大きい」
「介護する親二人分の増税と、子供一人当たりの手当てが中間層では、ほぼ同じくらい」
「子供一人だけ産んで、専業主婦(夫)家庭になってしまうと、中間層以上はほとんど恩恵無し」
「1450万円超クラスの高所得者には、ほとんどメリット無し。」
「最大に恩恵を受ける場合でも、子供一人あたり400万円強。中間層(年収700万)では300万円未満。」


ということで、この子供手当の恩恵を最低でも生涯子供一人あたり150万円以上受けるためには
子供一人の場合は、年収500万円未満、または共働きで年収1450万円未満で親の面倒を見なくてもよいこと。
子供二人の場合は、共働きで年収1450万円未満、または片働きで年収500万円未満か1200万円未満で親の介護無し。
子供三人以上の場合は、年収1450万円未満。
のような条件が必要になります。


これだけなら、これから子供を持つ家庭には、そんなに厳しい条件ではないようです。
ただし、これはベストケースですが。
財源的に、月26000円だと、年間に約5-6兆円の出費になります。
これを永続的に続けるのは、財政改革だけでは現実的に厳しく、
民主党自身も初年度は半額の13000円にする予定と述べています。
一時的な埋蔵金の使用、国債発行、増税をしないのなら、その線が精一杯でしょう。
また、現在小学生以下の児童に月5000-10000円支払われている児童手当も無くなる見込みなので、
その場合には、最低でも子供一人あたり90万円の減額になる。


それらを考慮すると
         もらえる金額        増税額         収支
子供一人あたり      234    140/191/292/232/333    94/43/-58/2/-99
(1200万円超クラスの増税額が増えていないのは、元々児童手当をもらっていない層だから。)


と、ほぼ壊滅状態となります。
特に年収700万円以上だと子供が多い家庭ほど現状より不利になります。
これは、子供手当を満額もらえる家庭の場合ですので、
もらえない家庭は更なる増税という事になります。


まとめると、現在民主党の主張してる理想案で子供一人あたり150-400万円、
現実的な線で行くと年収700万円以上の世帯は現状よりも生涯収支が悪くなります。(子供が多くなればなるほど。)
ですから、現在小さなお子さんがいらっしゃる家庭や
これから作ろうとされてる家庭でも、子供手当のメリットのみを狙うのは現状ではあまり期待できないため、
それ以外の争点を評価された上で、投票に行かれる事をお勧めいたします。



===

(余談)

少子化対策としての「子供手当」に期待される方もおられるかもしれませんが、
(ベストケースのみ有効ですが、)
まともに子供を大学まで行かせようと思ったら、2000-3000万円かかり、
子供を生む事による母親の就労機会損失、数百万〜数千万円が加わるような現状では、
数百万円のお金で、子供を持つ事を経済的にためらっている夫婦の不安を解消できるとは思えないので、
少子化対策の効果はあまり期待できないでしょう。


それよりも
1) 母親がキャリアを続けられやすくするための環境整備
(保育施設の増設、保育サービスの向上・多様化等)
2) 幼児医療の向上を図るための医療政策
3) 大学入学までの教育費を抑えるための公教育の質の向上
4) 大学教育の費用の削減
   国公立大学の授業料の削減・免除
   一部単位の取得を高校時からも認める等して卒業を早める。
   安価な学生寮・学生食堂の充実化による生活費の削減
   それでも補えない部分は返済不要の奨学金の拡充


等の施策の為の費用に回した方が、
少子化対策としては、より有効だと思います。
毎年三兆円あれば、1)と2)の全てと4)の一部ぐらいはできそうですし。
一兆円でもだいぶできるでしょうに。


(追記)


民主党子供手当シミュレーション
http://loan.mikage.to/kodomo.html


さらに独自のプランでの結果を見てみたい場合にお勧め。


(追記)

子供手当が支給されるのは期限限定になるそうです。
期間は4年間、最大でも10年間との事。
というわけで、上記の議論は机上の空論になってしまいました。

その前に、日本経済が終わる可能性の方が高くなってきました・・・。